2016年4月20日、アメリカ財務省が、ハリエット・タブマンを2020年に発行されることになる新20ドル札の表を飾ると発表しました。
彼女は黒人奴隷解放運動に尽力した黒人女性です。
アメリカ紙幣を、黒人女性が飾るのはこれが初めて。
時代の移り変わりを感じます。
さて、彼女が20ドル札の表を飾るのが何とも皮肉な話だということで、面白いエピソードが紹介されていました。
ハリエット・タブマンとは?
ハリエット・タブマンは、1820年にアメリカ・メリーランド州で、黒人奴隷である両親から生ました。
生まれたときの名はアラミンタ・ロス。
ハリエットという名は、母親の死後、母の名から取って名乗ったものです。
彼女は、5歳からメイド兼子守りの奴隷として働きはじめました。
1844年ごろ、同じ奴隷のジョン・タブマンと結婚しました。
長年の奴隷生活中、彼女は従順だったわけではなく、何度も鞭打ちを受けていたそうです。
同じ奴隷をかばって、頭部へ大ケガを負ったこともあります。
その後遺症で、生涯ナルコレプシーとてんかんに悩まされていたそうです。
1874年、彼女が29歳の時に、奴隷主が死亡。
それをきっかけに、奴隷制度がなかった北部、フィラデルフィアへ逃亡します。
(夫は脱出に反対したため、彼女だけが逃亡に成功しました。)
生まれてから、ずっと奴隷として過ごしていた彼女が、初めて自由になれたのです。
しかし、家族を南部に残したままでした。
彼女は家族を助けることを誓います。
当時、奴隷解放活動を行っていた秘密結社「アンダーグラウンド・レイルロード(地下鉄道)」に加わりました。
彼女は黒人奴隷たちを南部から、奴隷制度のない北部の州への逃亡させました。
その方法は命がけで、逃亡奴隷を狙う賞金稼ぎや、ハンターたちの獰猛な犬、整備された道を通るわけもなく、厳しい荒野を通らなければなりません。
黒人奴隷たちを17回に渡り、1度も失敗することなく、300人以上を目的地まで導いた「モーセ」。
それが、ハリエット・タブマンでした。
彼女の名はアッと言う間に広まり、奴隷制度を行っていた組織から4万ドルの懸賞金をかけられ指名手配されていました。
それでも、彼女はひるむことなく、奴隷解放運動を続け、南北戦争では北軍のスパイとして、その能力を発揮しました。
その時も、一度も捕まることはなかったそうです。
晩年は、ニューヨーク州に拠点を構え、身寄りのない元奴隷や戦死した黒人兵の遺族への支援を続けました。
人生を奴隷救出にささげたハリエット・タブマン。
1913年3月10日に肺炎で死去。93歳でした。
彼女の臨終の際には、仲間や助けられた人々、支援者が集まり「スイング・ロウ・スウィート・チャリオット(黒人霊歌)」を歌ったそうです。
ハリエット・タブマンと、20ドルという金額
新20ドル札の表を飾ることとなった、ハリエット・タブマン。
彼女のある逸話に、20ドルという金額が登場します。
ハリエット・タブマンが逃亡成功後も、両親はメリーランド州で奴隷をしていました。
家族を助けるためには、資金が必要でした。
そこで彼女は資金を手に入れるため、 ニューヨークへ。
隷制度廃止派オリバー・ジョンソンの奴隷事務所に乗り込みます。
そして、座り込んでハンガーストライキを決行。
ハリエット・タブマンは、オリバー・ジョンソンに訴えました。
「20ドルを要求するよう、神がお告げになったのです」
彼女を怪しい人物だと感じたジョンソンは、彼女を無視したそうです。
しかし、彼女が苦しい状況に置かれていることを知った人々が、彼女が眠った後に、ポケットに60ドルを入れてあげました。
そのお金と共に彼女はメリーランドへ向かい、父親を自由の身にしたそうです。
ハリエット・タブマンが、家族を救うために要求した20ドル。
その金額の紙幣に、彼女が描かれるのは偶然なのでしょうか。
また、南北戦争でスパイとして働いたハリエット・タブマンには報酬が支払われていませんでした。
後に彼女はその報酬を払うよう政府に訴え、アメリカ議会の年金委員会は、月々20ドルを支払うことで最終的に合意したそうです。
何かと、20ドルに縁がある女性なのですね。
ハリエット・タブマンが表、では裏側は?
ハリエット・タブマンが描かれるのは、新20ドル札の表面です。
では、裏面には何が描かれるのでしょうか?
裏面は、現在表面に描かれている人物、第7代アメリカ大統領・アンドリュー・ジャクソン氏です。
1829年3月4日~1837年3月4日の間、大統領を務めていました。
彼は米英戦争の英雄であり、合衆国初の庶民出身の大統領として、アメリカでは有名な人物。
と、同時に、黒人奴隷農場主でもありました。
ハリエット・タブマンと少しだけ時期が重なることもあり、かつて奴隷を所有していた大統領が、奴隷解放運動家の女性の裏面に描かれるという、なんとも皮肉なことです。
なお、同じ黒人で差別撤廃に尽力したキング牧師も、新5ドル札に描かれそうですね。
日本人の感覚からすると、ノーベル平和賞も取っているキング牧師の方が金額が上なんじゃないの?と思ってしまいます。
しかし、アメリカでは小額の紙幣ほどより多く使われるので、人の目に触れる機会が多いという理由から小額の紙幣の方が偉大とされる人物を印刷するようになっているそうです。
ということは、1ドル札に描かれている初代大統領、ジョージ・ワシントンがアメリカでは最も偉大な人物と思っているってことですね。
お金の雑学は、どこの国でも面白いものです。
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